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書き下ろし超短編小説
『残命』



 年齢的な順番からすれば親のほうが先に死んで当然だが、そうなるとも限らない。病気、事故、そして自殺−−−。自殺が唯一の"救い"だと気がつくと逆に理由なんてどうでもよくなる。いまの問題はどうやって死ぬかだ。
「ひとりぼっちで死にたい……」
 それが自分に課した条件だった。検討をした結果『富士の青木ヶ原樹海』を選んだ−−−はずだったのに……。
「こ、この事実を、か、かならず伝えてくれ……。た、頼むっ」
 大迷惑という言葉が浮かぶ。目の前の中年男は歩けないように両足や腹を何箇所も刺されてここに捨てられたようだ。自殺ではないことは理解できた。殺人でも親よりも先に死ぬなと思い出す。
「じゃぁ。いまの話を電話なりFAXで伝えればいいんですね?」
 よせばいいのに引き受けた。
「……そういえば一度入ったら出られないんだっけ」
 伝言を受けてから三日経過した。と、樹海の奥のほうで何かが動いた。そっちへ行ってみると、いままさにロープへ首をいれている場面に遭遇した。
「あ。すみません」
 誰だか知らないがこれでやっと気がかりが消失する。誰だかわからない相手に有無を言わさず伝言を引き受けさせる。そして急いで去った。
 意外だったのはその二日後に樹海を抜けてしまったことだ。戻ろうかと思ったが、向こうに公衆電話まで見える。
 伝言はその後二人ばかりに伝えたので間違いないとは思うのだが、皆がみな自分と違ってすぐに死んでしまったかもしれないと思うと、気がかりといえば気がかりだ。
 電話をかけると、相手はすごく驚いた様子だった。
『なんということだ!! どうして誰も彼もこのことを知っているんだ!! お前でもう二十人目だぞ!!』
 伝言がネズミ講式に機能して全員が電話できたのかもしれない。富士の樹海ではひとりぼっちで死ぬのに適さないことがわかった。


(終)

ふる・たいプ 作:2005/09/21 / 当サイト掲載:2008/01/05 



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